大学教養レベルで扱う線形代数では、逆行列は「正則行列(非特異行列)」である必要があり、がフルランクであることが逆行列を持つ必要十分条件であった。しかし、行列が特異(逆行列を持たない、フルランクでない)である場合でも、逆行列を持つように、逆行列を拡張した、一般逆行列というものが存在する。統計学の中でも多変量解析などの分野では行列を多用するため、行列の話題というのは非常関心の高いものになる。そのような分野における、一般逆行列の利用は今や日常茶飯事らしいので、定義くらいは知っておきたい。
定義
行列の一般逆行列(generalized inverse)とは
$$
\boldsymbol{AGA} = \boldsymbol{A}
$$
を満たす、任意の行列のことである。
※一般逆行列の他に擬似逆行列、条件付き逆行列という用語で呼ばれることも多い
実際、が非特異である場合はであるので、となっている。
一般逆行列の存在
次に気になるのが、この「一般逆行列」が存在するのかどうかである。結論としては
あらゆる行列は少なくとも1つの一般逆行列を持つ。
これは次の定理で証明される。
証明
が左逆行列を持ち、が右逆行列を持つことは既知としよう。この時、一般逆行列の定義から
$$
\boldsymbol{BT}(\boldsymbol{RL})\boldsymbol{BT} = \boldsymbol{B}(\boldsymbol{TR})(\boldsymbol{LB})\boldsymbol{T} = \boldsymbol{BT}
$$
である。すなわち、はの一般逆行列である。
今、任意の行列を考える。であるならば、明らかに任意の行列はの一般逆行列である。であるならば、を満たす最大列階数の行列と最大列階数の行列が存在する。したがって、「あらゆる行列は少なくとも1つの一般逆行列を持つ」という結論を得る。
この証明で既知として用いている部分に関しては参考文献を参照ください。
参考文献
David A. Harville,(監訳)伊里正夫(2012) : 『統計のための行列代数(上)』,丸善出版